なぜ北朝鮮が黒電話?金正恩氏の髪型の謎とネットスラングの真相
X(旧Twitter)や掲示板を見ていると、北朝鮮の動向が報じられるたびに「また黒電話がミサイルを撃ったのか」「今日の黒電話は機嫌が悪そうだ」といった投稿を目にします。国際情勢の緊迫したニュースの中で、唐突に登場する「黒電話」というワードに、思わず首を傾げた経験がある方も少なくないはずです。
この呼び名は、北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)総書記を指すネットスラングとして定着したものです。なぜ一国のトップが、昭和の遺物ともいえる通信機器に例えられるようになったのでしょうか。単なる容姿の揶揄にとどまらず、そこには北朝鮮指導部が綿密に計算した「権威づけのプロパガンダ」と、それをパロディ化して消費するネットカルチャーの奇妙な共犯関係が横たわっています。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「黒電話」の元ネタは、金正恩氏の頭頂部を平らに刈り上げサイドを大きく張り出させた独特の髪型が、昔の黒電話の受話器のフォルムに酷似していることから命名された。
- 要点2:北朝鮮におけるこの髪型の正式名称は「覇気ヘア(ペギ・モリ)」であり、祖父である建国の父・金日成主席の風貌を再現して権力基盤を固めるための高度な政治戦略だった。
- 要点3:2010年代半ばになんJやTwitterで拡散されて以降、現在もミームとして定着しているが、近年は年齢や健康状態に伴うビジュアルのマイナーチェンジも見られる。
【なぜ黒電話?】金正恩氏の髪型がネットで「受話器」と呼ばれる元ネタと由来
ネット上で「北朝鮮=黒電話」と結びつけられるようになった最大の理由は、金正恩氏の頭部シルエットと黒電話の受話器の形状の一致にあります。黒電話の受話器といえば、中央の握り手が緩やかにくぼみ、左右の送話口と受話口が大きく角張って突き出たダンベルのような形が特徴です。
金正恩氏が公の場に姿を現した際、耳の上から側頭部にかけてを極端に高く刈り上げ、頭頂部とサイドの髪を左右へ大きく張り出させたスクエアな台形シルエットを採用していました。このフォルムが、正面から見たときに「ダイヤル式黒電話の受話器を頭の上にポンと乗せた姿」に瓜二つだったことから、ネットユーザーの間で急速にいじられ始めたのです。
発祥の地となったのは、日本の匿名掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」の「なんJ(なんでも実況J)」やニュース実況板でした。2010年代前半、後継者として露出が増えた彼の顔写真と黒電話の画像を並べた比較コラージュが投稿されるや否や、「完全に一致」「受話器乗っけてるのかと思った」と爆発的な反響を呼びました。その後、SNSの拡散を通じて「金正恩氏=黒電話」という隠語・あだ名が一気に国民的なネットスラングとして定着していきました。
【正式名称と意図】「覇気ヘア」に隠された北朝鮮の権威づけと政治的理由
ネット上ではギャグの対象として消費されているこのヘアスタイルですが、北朝鮮側にとっては至極真面目な政治的演出でした。北朝鮮国内において、この髪型は「覇気ヘア(朝鮮語:ペギ・モリ)」という勇ましい正式名称で呼ばれています。若さと気迫に満ちた革命的な若者像を象徴するスタイルとして、国営メディアでも国民の模範として推奨されてきました。
金正恩氏がこの異様なスタイルをあえて選んだ背景には、祖父である金日成(キム・イルソン)国家主席のカリスマ性を借りるという明確な狙いがありました。父親である金正日(キム・ジョンイル)総書記が急死した2011年当時、金正恩氏は20代後半という若さでした。軍や党の古参幹部たちを掌握し、国民に自身の正統性を納得させるには、圧倒的な実績不足が懸念されていたのです。
そこで選ばれたのが、国民から「建国の父」として今なお絶大な崇拝を集める金日成氏の若い頃の姿を徹底的に真似ることでした。髪型をオールバックの台形に整え、ふくよかな体型を維持し、歩き方や拍手の仕方、演説のトーンに至るまで完コピする手法が取られました。北朝鮮側が威厳と正統性を示すために作り上げた「覇気ヘア」が、海を越えた日本のネット空間では「黒電話の受話器」というコミカルな記号へと読み替えられてしまった点に、情報伝達の皮肉なギャップが存在します。
【歴代の変遷】台形から台形へ?金正恩氏のヘアスタイル年表と最新ビジュアル
一見するとずっと変わっていないように見える金正恩氏のヘアスタイルですが、年代ごとの報道写真を丹念に追うと、実は時代によって微妙なマイナーチェンジを繰り返しています。
2011〜2013年(権力継承期):
権力を継承した直後は、まだ角刈りに近い比較的ナチュラルなオールバックでした。祖父へのリスペクトをにじませつつも、極端な誇張は見られませんでした。
2015年前後(黒電話の完成形):
もっともネット上で話題になったのがこの時期です。側頭部の刈り上げ位置がさらに上がり、トップの髪が左右に異常なほど高く盛り上がりました。頭頂部が完全に台形となり、正面から見ると横幅が頭の幅を大きく超えるほどのボリューム感を獲得。「黒電話度」がピークに達した伝説の時期と言えます。
2018〜2019年(国際外交期):
シンガポールやハノイで開催された米朝首脳会談など、国際舞台に登場する機会が増えると、ボリュームがやや抑えられ、滑らかに後ろへ流すクラシックなオールバックスタイルへとシフトしました。
2020年代以降(最新の姿):
40代を迎えた近年の公式写真では、側頭部にうっすらと白髪が混じるようになり、トップの盛り上がりも自然な落ち着きを見せています。かつてのような「頭の上に受話器が乗っている」と騒がれた過剰なボリューム感は影を潜めつつあるものの、額を全開にして威厳を示す「覇気ヘア」の基本骨格は現在も一貫して維持されています。
【ネットカルチャー】「黒電話」だけじゃない?金正恩氏のあだ名と北朝鮮スラング一覧
日本のネット空間において、北朝鮮指導者を対象としたスラングは「黒電話」だけに留まりません。ユーモアと風刺が入り混じった数々の隠語が誕生してきました。
代表的なものとしては、以下のような呼び名が挙げられます。
- 黒電話:髪型がダイヤル式受話器に似ていることから定着した、日本国内で最も有名な愛称。
- ロケットマン:ドナルド・トランプ元米大統領が弾道ミサイル発射を繰り返す金正恩氏を揶揄して国連総会演説で放った国際的スラング。後に「リトル・ロケットマン」とも呼ばれた。
- 金三胖(キム・サンパン):中国のネットユーザーが使っていた「金家の三代目の太っちょ」を意味する蔑称。あまりの広まりに北朝鮮政府が激怒し、中国当局が検索ブロックをかけたことで知られる。
- 将軍様:本来は公式の尊称だが、掲示板等では北朝鮮の強硬姿勢や大言壮語を皮肉る文脈でカジュアルに使われる。
一方、北朝鮮国内における隠語事情は笑い事ではありません。現地では指導者への侮蔑は即座に政治犯収容所送りとなるため、国民は「あの人」「一番上」といった遠回しな表現を使うか、密かに体型をもじったスラングを耳打ちし合っているのが実情です。
【海外の反応とメディア】国際社会はどう報じたのか?欧米・韓国での受け止め
金正恩氏の独特なヘアスタイルに注目したのは、日本のネットユーザーだけではありません。欧米の主要メディアも、彼のビジュアルを単なるゴシップではなく「独裁体制のプロパガンダ戦術」として大真面目に分析してきました。
米国の『ニューヨーク・タイムズ』や英国の『BBC』は、彼の髪型が意図的に祖父のシルエットを踏襲している点に触れ、「外見を通じて世襲の正当性を演出する政治的記号」と解説しました。同時に海外のソーシャルメディア上でも、映画『ストリートファイター』に登場するキャラクター「ガイル」の髪型や、四角いスポンジと比較するミームが大量に生成されました。
隣国である韓国では、若者を中心に「覇気ヘア」という言葉そのものが一時的な流行語となり、バラエティ番組でパロディ化される現象も起きました。独裁国家の指導者が持つ恐怖のイメージを、大衆がビジュアルの特異性を通じてユーモアへ変換し、心理的な脅威を和らげようとするプロセスは、世界共通の現象だったと言えます。
【北朝鮮の「黒電話」】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:なぜ北朝鮮の金正恩氏を「黒電話」と呼ぶのですか?
A1:耳の上を極端に刈り上げ、トップを四角く平らに広げた髪型が、正面から見た際に昭和の「ダイヤル式黒電話の受話器」のフォルムとそっくりだったため、掲示板やSNSで愛称・隠語として広まりました。
Q2:あの髪型に正式な名前はあるのですか?
A2:北朝鮮国内では「覇気ヘア(ペギ・モリ)」と呼ばれています。若々しさと闘志、革命的な覇気を表現したスタイルとして、指導部によって推奨された公式の名称です。
Q3:なぜあのような特徴的な髪型を続けているのですか?
A3:北朝鮮の建国者であり、国民から圧倒的な敬愛を受ける祖父・金日成国家主席の若い頃の外見を模倣するためです。若い年齢で権力を継承した金正恩氏が、指導者としての威厳と世襲の正統性を国民にアピールする政治的演出の一環です。
まとめ:独特のビジュアル戦略が物語る体制の現在地と今後の行方
「北朝鮮の黒電話」という奇妙なネットスラングの裏側には、最高指導者の権威を固めるために計算し尽くされた体制側の政治的演出と、それを瞬時に脱構築して笑いに変えたネットカルチャーの力学が存在していました。
独裁体制が威厳の象徴として打ち出した「覇気ヘア」は、境界線を越えた途端にコミカルな「受話器」として親しまれ、結果として重苦しい国際軍事ニュースの緊張感を奇妙に緩和させる役割まで果たしました。今後、世代交代や外交方針の転換が進む中で、指導者のビジュアル戦略がどう更新されていくのか。ニュース映像の向こう側のシルエットに、引き続き世界の視線が集まります。 (出典: 北 朝鮮 黒 電話(Yahoo!ニュース))